マリオ・ヴァン・ピーブルズ『ニュー・ジャック・シティ』91年製作
公開時、映画館に入れなかった客があふれ、騒乱状態になったという伝説がある。
暴動寸前のキケンな臨場感を帯びた一作。
その分だけ作品的生命は短いだろうと思わせる。
90年代ブラックシネマの中心点には、常にスパイク・リーとマリオ・ヴァン・ピーブルズがいた。
この二人が対照的な二極をつくっていた。
一口にいえば、ブラック・アメリカンの苦悩をドラマ化する方向と、クライム・アクションにメッセージを託す方向。
前者の典型がリー、後者の代表がピーブルズ。
この時代に発信されたブラックシネマのすべては、この二方向を持った。
リーのように暴力を世界の一要素とみるか、それとも暴力を世界の避けがたい中心とみなすか。
個人的にいえば、こちらを支持したい。
すべてを叩きつけた監督デビュー作という意味では、マリオのベストだが。
愚直すぎるブラック・ナショナリズムの匂いをふりまく一方でみせる不器用さが少し気になった。
ウェズリー・スナイプス(ドラッグ・ディーラー・キング)の儲け役が光る。
アイス-Tの刑事役も悪くはない。
ピーブルズは役者としては引き立て役に徹した。